ヒカリノオト第七回公演

手を振る

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私は、お母さんと二人暮らしをしている。
とある日、電話が鳴った。
十数年会っていなかった父が死んだという。お母さんは線香だけ上げて来ると家を出て行った。
なんだかこれまで当たり前だったものが恋しくなった。
やがてお母さんが帰って来て、でもそれ以来お母さんは「私の母」になってしまった気がする。

あれから三十年が過ぎ、母は介護施設のパンフレットを差し出して言う。「これで楽になるやろ」と。
複雑な思いを抱きながらも笑っていたあの頃のお母さんは、今どこで何をしているんだろう。
私は今この家で、一人、暮らしている。


三十年前と今が交差しながら、「私たち」のあの頃と「私たち」のこれからを切なくも愛おしく導き出す、ヒカリノオト渾身の最新作。
高齢の母に付き纏う介護の問題。若かりし二人に伸し掛かる母子家庭の現実。五十歳を過ぎた人生に見え隠れする、これからのこと。
現代社会が抱える問題を真っ向から切り取り、あの頃も今も「変わらないこと」。そして「変わっていくこと」を描く、普遍的家族の物語。
その物語は今日も、未だ見ぬ明日に向かって優しく笑いながら手を振っている。